ヴィーガンの方にもおすすめ、お寺での精進料理体験


今やユネスコ無形文化遺産に登録されている「和食」。なかでも「精進料理」は、日本の食文化の発展に大きな役割を果たしてきました。そんな精進料理の歴史や、味わうためのポイントをご紹介します。

精進料理とは仏教の考え方に基づく料理

精進料理の歴史



「精進」とは仏教の言葉で、「雑念を捨て、心身を清めて修行に励むこと」。精進料理は、仏教の教えに従って作られたものです。

仏教が日本に伝来したのは、聖徳太子が生きていた飛鳥時代のことです。平安時代にはすでに精進料理の原型ができていましたが、茹でた野菜に塩や醤油をかけただけの素朴なもので、清少納言は『枕草子』の中で「いとあしき(とてもまずい)」と書き記しています。

鎌倉時代に入って仏教の禅宗が流行するとともに、さまざまな調理法や調理器具も伝わってきました。それまでは「焼く」「茹でる」だけでしたが、「煮る」「揚げる」「和える」といった調理法が取り入れられたのです。

仏教の教えでは、食事も大切な修行のひとつです。特に禅宗では、すべての命と真っ直ぐに向き合い、感謝して調理し、大切にいただくことを重視しています。そのため調理法にもさまざまな工夫が凝らされました。

仏教の五戒


仏教には、守らなければいけないさまざまな戒律があります。なかでも一番基本となる「不殺生戒」「不偸盗戒」「不邪婬戒」「不妄語戒」「不飲酒戒」の5つをまとめて、「五戒」と呼んでいます。

五戒の最初に挙がる「不殺生戒」は、「生き物を殺してはいけない」という意味です。しかし私たちは、ほかの動植物を食事として摂らなければ、生きていくことができません。

ですから仏教の食事は、命を奪うことなく食材を得られる植物のみを用いて、使う分量も必要最低限、できる限り無駄にせず、大切に美味しくいただかなければならないのです。その考えかたを突き詰めたのが、精進料理です。

寺院の中には、精進料理を振る舞っているところも少なくありません。参拝に訪れた人に、仏教の考えかたを知ってもらうためです。特に観光客の多い東京や京都の寺院では、団体での修行体験や宿坊への宿泊を受け入れているところもあります。

精進料理で使われている食材

三厭五葷




精進料理では、「使ってはいけない」とされている食材があります。それが「三厭五葷(さんえんごくん)」です。
「三厭」とは獣・鳥・魚を指します。つまり、動物性の食材はすべて使えないことになります。「五葷」は、長ネギ・玉ネギ・ニンニク・ラッキョウ・ニラの5つです。臭いの強い野菜類を食べてはいけないという意味です。

殺生につながる三厭はともかく、五葷はなぜ食べてはいけないのでしょうか。それは、臭いの強い野菜は「気」を傷つけると考えられたからです。

気とは、自然に存在する根源的なエネルギーで、私たちの体の中にも流れているとされています。気を傷つけないとは、体に優しいものだけを食べようという考えかたです。そのため精進料理では、トウガラシ、コショウ、ショウガといった香辛料も使いません。

精進出汁




和食といえばまず、鰹出汁を思い浮かべる方も多いでしょう。しかし、動物性の食材を用いない精進料理では、鰹節を使うことができません。

精進料理の出汁として使われるのは、昆布・椎茸・干瓢・大豆などです。すべて植物性の食材からとった出汁で、これらをまとめて精進出汁といいます。昆布や干し椎茸でとった出汁は一般的ですが、干瓢や大豆の出汁はご存知ない方も多いのではないでしょうか。

大豆出汁は、最初に大豆を煎って香ばしさを出し、そこに熱湯を注いで半日ほど置いて作ります。手間と時間をかけることで美味しさを引き出す、まさに食材と真摯に向き合う仏教の考えかたにふさわしい出汁ではないでしょうか。

精進料理を満喫するためのポイント

もどき料理




精進料理では、肉や魚を使うことができません。そこで、植物性の食材を使って、見た目や食感を肉や魚に似せた料理が生まれました。これを「もどき料理」といいます。

例えば、私たちがふだんから食べている「がんもどき」も、もどき料理のひとつです。豆腐を使って、雁の肉のような見た目と食感を作ろうとしたのです。

赤コンニャクをマグロの刺身に見立てたり、高野豆腐を肉に見立てたりと、さまざまな工夫が凝らされたもどき料理は、精進料理の楽しみのひとつです。じっくりと味わって、本物とどのくらい違うのかを実感してみたいものです。

五味五色五法


五味とは「甘い・酸っぱい・辛い・苦い・塩辛い」という5つの味覚。五色は「白・黄・赤・青・黒」の5つの色。五法は「生・煮る・焼く・揚げる・蒸す」という5つの調理法を指します。

五味五色五法は、中国の陰陽五行説がベースになっているといわれています。仏教がインドから中国を経て日本に伝
わってくるとともに、精進料理にもこの五味五色五法が取り入れられました。

精進料理では、五味五色五法を意識して調理することで、飽きることなく食べられて、栄養もバランスよく摂れるよう工夫されています。精進料理を食べる際は、舌だけでなく目でも味わってみましょう。

精進料理の器




精進料理に使われる器は、基本的に漆器です。平安時代は貴族しか使うことができませんでしたが、鎌倉時代に入って禅宗が広まるとともに、漆器も広まりました。

木地に幾重にも漆を塗り重ねて作る漆器は、陶器より軽くて暖かみがあり、料理が冷めにくいという特徴があります。熱いものは熱いまま、冷たいものは冷たいまま味わってほしいという、精進料理のおもてなしの心が、器にも表れているのです

精進料理を味わうなら




東京や京都といった観光地なら、精進料理が食べられるスポットは寺院以外にもたくさんあります。しかし精進料理の真髄を味わいたいなら、やはり寺院での精進料理体験がおすすめです。

寺院によっては、「噛むときに音を立ててはいけない」「私語は禁止」といった厳しい作法が設けられていることもあります。それも、感謝の心を持って真剣に食事と向き合うという、仏教の考えかたに触れられる貴重な体験でしょう。

寺院での精進料理体験なら、精進料理に込められた意味なども詳しく解説してもらえます。日本の誇るヘルシーフード、精進料理をぜひ寺院で味わってみてください。

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